酒 2

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 バイトを当日欠勤して食う中華のうまさったらね。

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 東京ならどこの街にもあるようなザ・中華に入って奥の席に座り、出された麻婆豆腐を出来るだけ乱暴に食べる。箸の持ち方なんて気にしてる卑しい人間の話は聞くな。もちろんアディダスのトラックスーツを着て行った方がいいね。ジップを首元まで締めて、ちゃんと辛いから汗が滲んでくるのを確かめてからピータンを見やる。

 お前らはまだわかってないだろうけどピータンはうまい。ピータンって卵本体よりも上に乗ってる白髪ねぎとしょっぱいタレの方がうまい。ってか、白髪ねぎかけとけば大抵の人間は黙るんですよ。中華食べてる女の子って可愛くない?ほんとに、笑わないでほしい。ぶっきらぼう青椒肉絲食べてて欲しい。ほんとに。笑わない方がいいよ。前から言ってる。僕はインスタのIDに大量のアンダーバー使ってる人とは分かり合えません。

 西荻窪のカッフェでいちばん甘いミルクティーを飲んでいる。向かいの席にふんぞり返ってるジジイがさっきからずっと睨んでくるので僕も応戦してやりしばし無言の膠着が続いていたがそのせいで煙草がすべて灰になった。ジジイは競馬新聞に視線を落とした。ここ最近毎日酒を浴びていたら体を壊してしまった。ある朝、ベッドから動けなくなって肝臓や小腸、大腸があると思わしき部位に鈍い痛みがあった。病院には行ってない。嫌いなんだよ。嫌いなんだ僕は消毒液の匂いとかかかりつけ医の虫みたいな目が。まあその調子も治ってきて、久しぶりに、といっても三日ぶりくらいにここに繰り出している。

 文章についていつも考えている。いい短歌や、いい俳句っていうのは視線の切り替えがミソらしい。目の前のミルクティーについて詠み、そうしておいて急に太陽系について想い、それから家の三角コーナーに溜まってる腐ったにんじんのことや、アザラシのぷよぷよした腹を眺めたり。

 電車に乗ってきた浮浪者の発する体臭があまりに酷くて黒人が電車の窓を開けてやったり、なぜかボロボロの浮浪者が履いてるのはおろしたてのジョーダンだったり、読者の視点を、遠くから近くへ、近くから遠くに移動させるといいんだって。まあたしかに。そのためには嘘つきにならなきゃいけない。文章を書けるやつはとんでもない嘘つきだ。あるいは全くすべてが理にかなっていて実際すべてがリアルだったり。嘘をつかなくてはいけない。僕はブログで書いてることについて、意図的に嘘の濃度をだんだん上げている。最近はあまりほんとにあったことや思ったことは正直に書いていない。ブログでも、なんでも。

 僕の友達にカワシマっていうやつがいて、最近顔を合わせてないのだけれど。そいつの飲み方っていうのが面白い。席のはじっこで日本酒かなんかを静かに大量にやり、急に泣きだす。僕は死んだ方がいい人間だなんて言い始める。僕は死にたいなんていうやつを見下してるからバーカてめーの葬式なんていかねーよと思いながらもっと酒を渡す。すると今度は急にケタケタ笑いだす。狂った女みたいで気持ちが悪い。僕はカワシマの本音はどれなんだろうと思う。静かに革のカバーつけてカズオ・イシグロ読んでる時と、酒ですっかり廃人になってる時、あるいは僕が知らない時のカワシマが本当なのか。カワシマはくだらない、太宰治とかの無頼派に傾倒してるからすっかり破滅の美しさに魅了されちゃってああ死にたいなあなんて言ってる。まあ知らない。そういうやつは88歳まで生きてボケながら親戚にちょっと煙たがられて死んでいくんだなあ。ただ僕もくだらない破滅が好きなので、いつだったか誰かにボコボコにされて血だらけになってるカワシマが一番美しいとは思っている。