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 富山に行こうとしていたが、寒すぎる気がしてやめた。

 正しくは、金がなかった。何をするにも金がかかるので部屋でひとりサンショウウオみたいにベッドと床の合間にいる。

 今週はカレーを３回食った。本日４回目としてかわいい同級生の子が働いてると聞いたカレー屋に行ったら開いてなかった。ちなみに一番うまかったのは八重洲で食ったおかわり自由のインドカレー、次がココイチのほうれん草カレー、たまプラーザのグリーンカレーは高かったのに微妙だった。おれはその子に会いたかったし本当にカレー屋が似合うだろうなと思っていたから残念だった。

 それ以外はインスタント麺だけだ。

 久しぶりにクラブに行った。クラブ？ミュージックバーみたいなもの。3000円。エントランス、ハイネケン。2000円。知り合いとか友達がめいめい勝手にやってる。友達がDJをやる。グラスに口をつける。話しかけられる。去っていく。グラスに口をつける。キャメルの煙がかかる。歌が抜けていきリズムパターンだけになる。ビートの形が変わる。メロディが入る。再び曲が始まる。歓声が上がる。そして歌が抜ける。

 誰もおれに話しかけてこなくなってから気合いを入れて踊りはじめた。ウォッカトニックをお代わり。1300円。出し抜けに本を渡された。こういう場所で本を受け取ったのは初めてだった。bpmと音量がぐっと落ち着いたタイミングで席をとってその本をざっと読んだ。つまんなそうにしている二人組が正面に座っていたので何故か話しかけてしまった。クソほど続かない会話をした。席を立つ。本は面白かったので借りる。借りる？

 この時点でだいぶとブログを書きたい気持ちになっていた。だがそれよりも、かなりかける曲のセンスは素晴らしかった。おれの文章を読む暇があるなら今日渋谷のタングルに来るべきだった。もう遅い。我々は四角いサウンドシステムに踊らされている肉布団にすぎないのだが、読書という行為よりはよほど褒められたものだと思うよ。

 会社が暇になった隣人が地元に帰るついでに彼女を両親に紹介しようか迷っている。壁越しの電話からそう聞こえてきたからだ。隣人は新潟出身らしい。へえ。おれは新潟が好きだ。

 ちなみにおれも地元に帰ろうとしている。新潟なら良かったよな。違う。もっと西だ。

 移動している。おれはどこか別の場所へ移動しているときしか生きていることを実感できない。これは「くせ」だ。あなたにもそういうのはあるだろう。目的地はどこでもいい。目指すべき場所などない。さっきから咳が止まらないので隣に座っていたやつがどこかに行った。みんな気にしすぎだ。

 行きたくない場所なら答えられる。今だと暖かいところは気分じゃない。沖縄は嫌いだ。宮崎、鹿児島ももうたくさんだ。高知に行くかもしれない。高知も暖かい気がするので嫌だが一度くらい行ってやってもいい。

 窓ばっか見ている気がする。窓の外の景色を見過ぎだ。これはわかり切っていることだろうが、おれが窓の外に「ここではないどこか」の意味を期待しているので窓の外ばかり見ているのだ。おれは日本の郊外の景色が好きだ。郊外？国道沿いの景色。ずらっと並んでいる軽自動車の運転手にはおれが全く関係のしない人生がある。おれが一生想像することすらできないものに触れるのは楽しい。トンネルを抜けるたびに街の規模が変わってゆく。宿場町から成長した街、門前町だった街、城下町だった街。かつて栄えていたであろう地点が、鉄道が敷かれて駅前に移動する。やがて国道が整備されてかつて活気があふれていたそこが死ぬ。国道沿いに様々なチェーン店が乱立する。ファスト風土というものだ。詳しくはおれが卒論で書く予定なのでそれを読んでくれ。それにも飽きると道は、県と県を結ぶバイパス同士で繋がる。いくら過去に交通の要衝でうまくやっていた街も、バイパスで死ぬ。

 それをどうこうしようなんて話ではない。それはどうこうしたいやつに任せることにしよう。おれは今同級生のインスタを見ているからそんな暇はない。

 あなたの街はどう？死んでる？死んでるよな？

 帰省するたびに地元はうらぶれていく。おれは瀬戸内海のとある田舎で生まれ育った。みんなはそんなの興味ないだろうし、飽きるほど同じ話をされているからうんざりする場合もあるだろう。おれとあなたの親密度の問題だ。地元の人間と話すことなんて、もう地元の話くらいしか残ってないでしょう？

 10年くらい前までは、店が潰れると跡地に病院や斎場かコンビニが建った。飲食店が潰れてまた飲み食いの店が建つことはもうあまりなかった。現在もどんどんと順調に様々な店舗が潰れていっている。昔と違うのは、その後できるのが駐車場だけになったということだ。以前の基礎を崩してしまえば路面に白線を塗るだけで済むからだ。駐車場は潰れたりしない。街に駐車場が増えるということは、本当に終わりが始まるということだ。

 だが終わることはない。みんな薄々気付いているだろうけど、本当に何かがおわったりすることは滅多にない。終わることはなくて、最も悪い状況が永遠に続くだろう。見方によっては最悪ではないかも。地元についてのネット掲示板に「ここにはハゲか陰鬱しかいない」と書き込まれていた。正しい。ここにはハゲか陰鬱しかいないし、ここにおれが留まることになったらハゲるだろう。陰鬱なのは元々なので関係ない。つまりあなたがハゲでも陰鬱でも愛せるのなら、問題はないということだ。

 平たく言えば、そんなのは最悪だ。おれはさっきから小学生が書くような文章を生成している気がする。とにかく最悪だ。ハゲと陰鬱の件におれから付け足してもらうとすれば、ここにはハゲて陰鬱な年寄りしかいない。それでも愛せるか？うすっぺらな博愛主義者どもがよ。しかしまあ、もうそんなことにも興味はなくなった。このおれでさえ、少し前は地方に生まれた人間の宿命として『どうすれば明るかった頃の故郷を取り戻せるでしょうか』というありきたりな命題に真面目に取り組んでみた。まあ少し本を読んで勉強したりして無理だってわかったんだけど。どうしようもないことだってある。そもそも明るかった頃の故郷なんてものがなかったのだが。それも懐古趣味を引きずっていて気持ちが悪い。

 地元なんてもはや、どうでもいい。末期がんみたいだから嫌いだ。

 海は綺麗だと思う。