𝙕𝙊𝙈𝘽𝙄𝙀 🧟‍♀️ 𝘿𝘼𝙔𝙇𝙄𝙂𝙃𝙏 ☀️

カミュの『異邦人』を再読した。パーフェクトな小説だ。いまのところ完璧に近い。これからも何度と読み直しそのたびにいたく感動するだろう。再読したきっかけはある日の夕方、衝動的に再び異邦人のストーリーを読み込みたくなったのだ。いくら本棚を探しても見つからなかった。代わりにプーチンのワッペンが二枚出てきた。投げ捨てた。思い出した、どうしても酒代が足りない夜に大量に本をブックオフに持ち込んだ折手放してしまったのだ。本を売って飲んだ酒はうまかった。

『異邦人』とは、真紅の血と太陽の物語である。太陽がキーワードだ。太陽というモチーフは大好きだ。月を見る場合、別の国の誰かが観察している月の姿は同じだ。太陽は違う。日本の太陽と地中海の太陽はどれくらいかけ離れた恒星にみえるのだろうか。アルジェの太陽に比べれば日本の太陽なんてきっと仄かなものなのだろう。アルジェの太陽にいつか焼かれたいと思う。麻の開襟シャツを着て、裸足でビーチに立っていたい。殺したくなるのだろうか？

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とはいえ、つい先ほどまで日本も夏ではあった。みなさんはどんな夏を過ごしていただろうか？夏に一回もブログを書かなかった。ブログというか、まとまった文章をひとつも書かなかったと思う。それは周りの人間も同じように思われる。色々なことがあり色々な人とすれ違ったが、それは書くべきではないのかもしれない。そういうことなのかも。

思い出した。『異邦人』を読み直そうと感じたのは、山形に行った後のことだ。

2020年8月2日の庄内は太陽の下にあった。まさしく真夏日だった。盆地に包まれた平野の中をパジェロで走っていた。箱庭で遭難している登場人物を演じているようだなと思った。盆地という地形にはそういった効果がある。鳥海山、羽黒山、月山や湯殿山というおれにとってほとんど馴染みのない、遠い山脈の壁によって幽閉されていた。太陽光の強度を遮るビルや工場はまばらで、地表は山の裾野の境界面まで田園と果樹林でたっぷりと満たされていた。直線的な太陽の熱で髪の毛がチリチリと焦げ、青いアロハシャツが小川に溶けていくみたいだった。パジェロは柔らかく融解し小舟に姿を変えていった。出口のない緑色の内陸湖を彷徨う幽霊船のようにも思えた。これがどういうことかというと、また脳味噌が溶けていたのだ。

稲(つや姫)のグリーンと空のブルーがドロドロに混ざり出した視界の中で、ふとムルソーのことを思い出した。『異邦人』の主人公で、太陽によって人を殺した。ムルソーは太陽のせいで殺人をした。これは多くの場合に誤解されているだろうが、ムルソーは本当に太陽が眩しかったから人を殺したのだ。比喩を含んでいるのではない、熱中症でおかしくなってもいない。いや、ムルソーは狂気と最も遠い場所にいると断言できる。彼の振る舞いは完全に整理された理論に基づいている。そしてその理論は正確に一般化されていて、A4のコピー用紙一枚に収まってしまうだろう。

おれは、なぜ太陽が眩しいと人を殺すのかそのとき一瞬だけ悟ってしまったのだ。だがそれは溶けた脳味噌が見せたイメージで、おれはやはり狂気に縋るよりほかに方法がなく、人を殺すことはできないのかと感じた。

みたいなことをそのあとすぐに書き出すこともできた。このようなことに関係なく、山形の夏は本当に、本当に素晴らしかった。気が許せばたくさんの写真で山形の夏を紹介したかったが、気が許さないのでそれは不可能だった。やはり移動と、それに付随する観光は直接自分で体験した方がいい。あなたも興味があればぜひ行ってみるといい。鶴岡と酒田は夏が似合うと思う。来年になったら新潟から羽越本線に乗って行くといい。